泌尿生殖器疾患/手術

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子宮蓄膿症の治療選択

獣医師の梶村です。

子宮蓄膿症とは、子宮内に貯留した細菌が産生する内毒素(エンドトキシン)によって、重篤な症状を示す疾患です。 

一般的な治療としては、外科的に卵巣子宮全摘出術が行われます。
 しかしそれ以外にも、ホルモン剤を使用して、子宮内の膿を排出させる治療もあります。

ホルモン剤は複数あるのですが、当院で使用しているホルモン剤はアリジンというものです。

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アリジンの効果としては、プロジェステロンの作用を一時的に抑制することで、黄体期から脱して、細菌の増殖を抑制し、子宮頚管を弛緩させることにより、排膿を促進します。

この薬の良いところは、今までのホルモン剤とは違い、副作用がほとんど無いことです。 
また子宮平滑筋の収縮作用が無いので、膿が外に出ない閉鎖性の子宮蓄尿症にも安全に使えます。

ただし注意しなければいけないことは次回の発情以降に再発する可能性が十分にあることです。 
これは一時的には膿を出させますが、卵巣子宮自体は残っているために、次回の発情後に同じような状況になるためです。
またアリジンは日本では市販されていないため、置いていない病院も多いです。

今回はこのアリジンを使用したワンちゃんを紹介します。

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チワワのバニラちゃんです。
陰部からの排膿(顕微鏡で過剰な細菌が認められた)があり、腹部エコー検査、血液検査より子宮蓄膿症と診断しました。

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また乳腺の腫瘤も複数認められました。 

本来ならこの時点で、卵巣子宮全摘出術と乳腺腫瘤の切除を行うところですが、バニラちゃんが貧血を起こしていたことと、乳腺が棒状に腫れていて炎症性乳癌(悪性度が非常に高く、外科は不適応)の可能性があったので、まずはアリジンを使用して、注意深く観察し、排液して子宮が小さくなれば手術することにしました。

結果的には、子宮内の液体が減り、貧血は改善し、乳腺の腫れも無くなり、状態も良好な中で卵巣子宮摘出術と乳腺腫瘤の摘出ができました。

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これからは今回のように、子宮蓄膿症でも緊急に手術するだけでなく、内科で状態を上げつつ、手術することも考えていいと思います。(もちろんそんな悠長に待てない子は別ですが)
それを可能にするのがアリジンです。
また様々な理由で麻酔をかけられない子にも有効です。
ただし、効果が無いかもしれないということと、次の発情後以降に再発する可能性が十分にあるということは理解しておかなければいけません。 

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獣医師 梶村

かもがわ動物クリニック