病気紹介

前十字靭帯断裂

病態

前十字靭帯は膝関節の中にある靭帯の一つで、脛骨の前方への変位と、膝関節の過度な伸展を防止しており、後十字靭帯とねじれあう形で脛骨を支えています。

この靭帯が断裂すると、痛みを伴うとともに、膝関節が不安定になり、足を挙上してしまいます。

犬では外傷のみによる断裂は稀で、加齢性や変性性変化があらかじめ生じていて、そこに力学的なストレスが後押しするケースが多いです。

膝蓋骨脱臼を起こしている犬の15%~20%が、前十字靭帯断裂を併発していると言われています。

一方、猫では外傷による発症が一般的です。

部分的または完全に断裂してしまった靭帯は、一度損傷すると治りにくく、進行性で元に戻ることはありません。

症状

後肢の跛行がみられます。また、きちんとお座りができない、肢を浮かせる(挙上)などが見られます。二次的に半月板が損傷した場合、重度の跛行(スキップ)があらわれます。靴の中に石をいれて歩くような、とても強い痛みを伴います。

診断

問診、視診、触診

・跛行、お座りの様子を確認(sit test)

・大腿筋の触診で筋の萎縮、筋肉量の減少の確認

・関節の腫れ、痛みの確認

・膝の安定性(脛骨前方引き出し試験、脛骨圧迫試験)

レントゲン検査

大腿骨と脛骨の位置のずれ(drawer sign:ドロワーサイン)

炎症による関節液貯留の結果生じる、脂肪の圧迫像(fat pad sign:ファットパッドサイン)を確認します。

関節鏡検査

麻酔下にて関節鏡検査を実施し、断裂した靭帯を確認することもあります。

 

治療

内科療法

・体重管理:肥満は膝への負担がかかるので、太りすぎないように注意します。

・痛み止め:痛みが見られる場合は消炎鎮痛剤などを使用します。

・関節炎注射(カルトロフェン):軟骨基質の産生促進、抗炎症作用、ヒアルロン酸合成促進、血行改善、蛋白分解酵素の活性阻害の作用があります。

・レーザー:当院では疼痛コントロールや消炎効果を目的としてレーザー治療を行うことがあります。

・装具による固定

※当院では、関節内にPRP(多血小板血漿)や間葉系幹細胞(MSC)を関節内に投与するといった再生医療も実施しています。

外科療法

臨床症状が続く場合や体重が 10~15 kgを超える場合などは外科的療法(手術)を検討します。

・関節外法:種子骨と脛骨にナイロンをかけて固定します。大型犬では向かないことがあります。

・脛骨骨切り術(TPLO):骨を切ってプレートを固定します。最近行われるようになった方法です。

また、半月板の損傷がある場合は半月板除去なども同時に行います。

 

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