低血糖症

病態
血中のブドウ糖(血糖)は消化管による食べ物からの吸収、肝臓や筋肉で貯蔵されているグリコーゲンの分解、肝臓や腎臓での糖新生により供給され、その供給が様々なホルモンによって調節されることで恒常性が保たれています。
低血糖症とは、何らかの要因により血糖値を一定以上に保てない状態を指します。
血糖は生命活動に欠かせないものであるため、低血糖は緊急の対応が必要になります。
原因疾患は大きく分けて、
①糖の供給不足(食事の摂取不足、ホルモン作用の低下、肝臓・腎臓の機能障害など)
②糖の消費増加(薬物、腫瘍(インスリノーマ・肝細胞癌など)、ホルモン異常など)
③①と②の複合(門脈体循環シャント、キシリトール中毒、感染症など)
④腎不全(腎臓における糖の再吸収低下)
の4つに挙げられます。
特に子犬や子猫など幼齢動物は健康な個体であっても臓器の機能が未発達なため、食欲不振や下痢嘔吐が続けば低血糖に陥りやすく注意が必要です。
また糖尿病の治療中で、インスリン注射や血糖降下薬を使用している場合、発症してしまうことがあります。
症状
症状は多岐にわたり、虚脱、下痢や嘔吐、運動失調など非特異的な症状から、意識障害、流涎、振戦、痙攣などの神経症状を呈することもあります。
特に神経症状が見られる場合は脳へのダメージが懸念されるため、早期に治療を行わなければ脳障害が残る可能性もあります。
慢性的に低血糖であったり、低血糖を繰り返している場合は症状にあまり現れず見逃されてしまうことがあります。
診断
血液検査にて血糖値が60mg/dL以下であれば低血糖症と診断します。(正常は100mg/dL前後)
通常の血液生化学検査だと時間がかかり治療が遅れてしまうため、当院では血液1滴、数秒で数値のわかる簡易血糖値測定器を使用しています。
まず患者情報を確認し、幼齢動物かどうか、糖尿病の治療中かどうかを確認します。
また誤食による毒物(キシリトールやエチレングリコールなど)の摂取の有無も確認します。
身体検査を行い、必要に応じて血液検査、尿検査、画像検査で全身をスクリーニングします。
治療
低血糖が認められる、もしくは疑われる場合、まずブドウ糖液の補充を行います。
可能であれば血管のルートを確保してブドウ糖液を投与しますが、迅速の対応が必要な状態であれば経口投与を優先して行います。
発作など脳神経症状も併発している場合は鎮静薬や脳圧を下げる薬剤を使用して症状を抑えます。
状態の安定化が認められれば、ブドウ糖を添加した点滴製剤の持続点滴、可能であれば食事を少量頻回で与えて血糖値の低下を防ぎます。
以降は原因疾患の治療に準じます。
繰り返しになりますが、低血糖症は生命に関わる病気です。
少しでも疑われるようなことがあればすぐに当院にご相談ください。