最大限の安全と最小限の苦痛を目指して
当院では基本的な避妊去勢手術から、その他の軟部外科、整形外科まで幅広く手術を行っております。また難易度の高い手術でも、提携している外科専門医と協力して実施しています。
麻酔をより安全にするために、手術前の検査、手術中の動物のモニター、手術後の覚醒状態把握を重要視しています。
また動物への苦痛を最小限にするために、手術によっては複数の鎮痛剤を使用し(マルチモーダル鎮痛法)、全身麻酔だけでなく局所麻酔も積極的に実施しています(ペインコントロール)
出血リスクが低い「ソノサージ」を使った手術
ソノサージは超音波により生体組織の切開及び凝固が可能です。
この機械を導入している動物病院は少ないですが、当院ではより安全で、より負担がかからない手術を行うために使用しています。
ソノサージを使った手術の様子
ソノサージの特徴
- 身体の中に極力、糸(異物)を残さない手術が可能
- 手術時間が大幅に短縮され、動物たちの負担が減ります
- 安全、確実な止血・切開が可能な為、難易度の高い手術をできるだけ安全に手術を行うことができる
- 去勢・避妊手術から腫瘍の切除など様々な手術で使用可能
多くの手術は、糸を使用して血管を結び、そして切断するという行為の繰り返しが必要になります。
よって、問題となるのが『縫合による麻酔時間の延長』と『縫合糸反応性肉芽腫(糸アレルギー)』です。
当院では、血管を糸で結紮する(縛る)のではなく、超音波振動を利用して血管をシール(密封)することのできるソノサージを使用することにより縫合する時間をなくし、手術時間を大幅に短縮することが可能になりました。
その結果、全身麻酔の時間が短くなり、動物達の負担が軽くなります。
このことは、特に麻酔のリスクが高い高齢の動物や重症の動物にとって何よりのメリットと考えられています。
おなかの中に糸を残さないことの重要性
近年『縫合糸反応性肉芽腫』という病気が増えてきています。この病気は、手術が終わって数ヶ月後から数年後に、手術部位の近くが腫れてきたり、おなかの中にしこり(肉芽腫)ができたり、あるいは皮膚の様々な場所にしこりができ、そこに穴が開いて膿が出たりする病気です。
これらは身体の中に残った糸に、身体が過剰な異物反応を起こすことで起こると考えられています。このような症状が出たら、手術で肉芽腫と残った糸を摘出しなければなりません。
また、摘出が不可能なほど癒着している場合はステロイドや免疫抑制剤を飲ませてコントロールしていきます。ほとんどの場合一生の投薬となります。どの子が発症するかわかりませんから、身体に縫合糸を残さない事が唯一の予防策となります。
ソノサージを使って行う主な手術
- 去勢、避妊手術
- 腹腔内腫瘍摘出
- 乳腺腫瘍
- 子宮蓄膿症
- 脾臓摘出
- 体表腫瘍切除
- 軟口蓋過長症、など
当院ではソノサージを用いて安全・確実な血管閉鎖を行い、体内に糸を残さない手術を実施しております。
麻酔のリスク
去勢手術、避妊手術、歯石除去、骨折手術、内臓摘出手術など、これらは全て全身麻酔を必要とします。
麻酔のリスクで当然一番に考えなければいけないことは、麻酔関連による死亡のリスクです。若くて健康な子と、腫瘍などにより全身状態が悪い子ではその麻酔のリスクは大きく変わってきます。
そのため、当院では麻酔の前に身体検査、血液検査、画像検査を実施することで、できる限り患者の状態を把握してから、飼い主さんと話し合いを行っています。
麻酔関連の死亡原因として多いのは、心血管系、呼吸器系の合併症です。また、タイミングとして多いのは術後が一番多いため、手術の後は特に注意をして経過観察をしています。
麻酔を必要以上に恐れる必要はありませんが、100%安全な麻酔は無いので、楽観的に考えずにしっかり向き合う必要があります。
麻酔中死亡率ゼロを維持していくために
当院では、高性能の麻酔器「Dräger Fabuis plus(ドレーゲル ファビウス プラス) を導入しています。この麻酔器は京都大学病院の小児手術室でも導入されており、身体が小さな患者(私たちでは犬や猫)で力を発揮します。
この麻酔器の一番の特徴は、患者の肺の大きさや硬さ(内圧)を自動で判断し、その子に合わせて人工呼吸などのサポートを行なってくれるという点です。
例えば、1kgの子猫や2kgの小型犬と50kgの大型犬では全然肺の大きさが違いますし、同じ小型犬でも年齢や疾患によって肺の硬さ(内圧)が異なります。ですから、その違いを判断し、その子その子に合わせた全身麻酔をかける必要があります。
当院では開院して、これまで約10000件以上の全身麻酔を実施してきましたが、幸い全身麻酔中の死亡例はゼロです。(一般的な麻酔中死亡率:犬0.17%、猫0.24% <Brodbelt et al.,2008>)
今後もさらに安全な麻酔器を使用し、術前検査をしっかりと行い、術前の麻酔計画をしっかり立て、症例に合わせた麻酔薬を使用し、周術期のペインコントロールを十分に実施し、麻酔中の動物とモニターを注意深くみることで、この “麻酔中死亡率ゼロ” を維持し続けるよう力を尽くします。