犬の口腔内扁平上皮癌

病態
扁平上皮細胞が腫瘍化した悪性腫瘍(がん)です。
主に中高齢(平均年齢8〜10歳)で発生しますが、若齢でも発生します。
犬の口腔内扁平上皮癌は、口腔内に発生する腫瘍で悪性黒色腫に次いで2番目に多く、局所浸潤性は比較的強い(骨に浸潤しやすい)ですが、転移は比較的まれです(例外として扁桃の扁平上皮癌は高率に転移します)。転移部位としてはリンパ節と肺が多いです。
口腔内扁平上皮癌(赤丸)
症状
口臭や口からの出血、食べにくいなどの症状がみられます。これらの症状は歯周病でもみられるため、歯周病と間違われ、発見が遅れてしまうことも多いです。
診断
扁平上皮癌の診断には針生検(細い針をさして細胞を採取する検査)が有用で、扁平上皮細胞が採取されれば診断が可能です。しかし、針生検での診断が困難な場合もあり、その場合は組織生検(できものの一部を採取する検査)が必要となります。
針生検で採取された扁平上皮癌
ステージングおよび併発疾患の評価
扁平上皮癌と診断した場合、がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(肺などへの転移)の評価を行います。これをステージングといいます。
同時に併発疾患がないかどうかも評価します。
これらの評価には以下の検査を組み合わせて行い、評価を基に治療方針を決定します。
・血液検査:併発疾患(貧血や腎臓病、肝臓病など)の評価
・尿検査:併発疾患(腎臓病など)の評価
・レントゲン検査:遠隔転移の評価
・超音波検査:遠隔転移の評価
・CT検査:がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移の評価
※口腔内の扁平上皮癌の場合、骨への浸潤が認められることが多いため、CT検査は必須の検査です
扁平上皮癌により骨が溶解が認められたCT画像(赤丸)
・リンパ節の針生検:リンパ節転移の評価
犬の口腔内扁平上皮癌のステージ分類
ステージ | 腫瘍の大きさ | リンパ節転移 | 遠隔転移 |
1 | 2cm未満 | なし | なし |
2 | 2~4cm | なし | なし |
3 | 4cm以上 | なし | なし |
4 | 大きさは問わない
大きさは問わない |
あり
転移の有無は問わない |
なし
あり |
治療
がんの治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和治療」があります。
「根治治療(積極的治療)」とはがんと闘う治療であり、がんをできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。根治治療(積極的治療)は長期生存(一般的には年単位)を目的とした治療であり、がんを治すことができる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いがんでは、根治治療(積極的治療)を行ったとしても数カ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療(積極的治療)では主に「手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療・分子標的治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
一方、「緩和治療」とは、がんによる苦痛を和らげることを目的とした治療です。緩和治療は長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(一般的には月単位)であってもその期間の動物の生活の質を改善するために行う治療です。緩和治療では主に「痛みの治療」、「栄養治療」、「症状を和らげる治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
・口腔内扁平上皮癌の根治治療(積極的治療)
根治治療として手術(腫瘍の切除と必要であればリンパ節の切除)が適応となります。
また、病理組織検査の結果次第では、術後に放射線治療や抗がん剤、分子標的薬などが適応となる場合もあります。
・口腔内扁平上皮癌の緩和治療
腫瘍がすでに遠隔転移している場合は、根治治療は適応となりません。
その場合は、痛みの緩和や腫瘍の進行を遅らせる治療(免疫療法など)が選択されます。
また、腫瘍からの出血や痛みなどで動物の生活の質が落ちるようであれば、遠隔転移があったとしても緩和治療として手術や放射線治療が適応となる場合もあります。
当院では、状況に応じて、温熱療法やレーザー治療、免疫療法、鎮痛剤などを組み合わせて行うこともあります。
予後
腫瘍が切除しやすい部位に発生した場合、手術(状況に応じて術後に放射線治療)を行うことで、根治が期待できます。
一方で、腫瘍がかなり大きく、手術で完全に切除できない場合や遠隔転移が認められる場合、根治は難しく、予後には注意が必要です。
また、無治療の場合の生存期間中央値は54日で1年以内に全頭が亡くなっていると報告されています。
そのため、口腔内扁平上皮癌で積極的な手術が推奨されます。
愛犬が口腔内扁平上皮癌を患ってしまい、ご不安な方は当院にご相談ください。
当院では、獣医腫瘍科認定医による腫瘍科専門外来を行なっております。
詳細は下記のリンクをご参照ください。