犬の甲状腺癌
病態
甲状腺が腫瘍化した悪性腫瘍(がん)で、犬では良性の甲状腺腫瘍はほとんどありません。
主に中高齢(平均年齢:10〜15歳)で発生し、特にビーグル、ゴールデンレトリバーに発生しやすいです。
犬の甲状腺は左右に一つずつあり、多くは片側が腫瘍化しますが、両側が腫瘍化することもあります。
甲状腺は甲状腺ホルモンを分泌しますが、甲状腺癌ではホルモンが過剰に分泌されることはまれです。一方、正常な甲状腺が破壊されることでホルモンの分泌が低下してしまう場合があります。
また、甲状腺癌は正常な位置とは違う位置(舌、舌骨装置、前縦隔、心臓)に発生する場合もあります(異所性甲状腺癌といいます)。
甲状腺癌の進行は比較的ゆっくりですが、中には進行が早く周囲組織(血管、神経、喉頭、気管、食道など)に広がる場合もあります。また、甲状腺癌と診断した時点で約20〜40%は転移していると考えられてり、リンパ節や肺、まれにお腹の臓器に転移します。
症状
多くは無症状で、頚のしこりとして見つかることが多いです。
進行して周囲組織に広がると、嚥下障害(飲み込みづらい)や咳、呼吸器障害、神経症状などが認められる場合があります。
診断
甲状腺癌は発生位置および針生検で診断可能な場合が多いです。
ステージングおよび併発疾患の評価
甲状腺癌と診断した場合、がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(肺などへの転移)の評価を行います。これをステージングといいます。
同時に併発疾患がないかどうかも評価します。
これらの評価には以下の検査を組み合わせて行い、評価を基に治療方針を決定します。
・血液検査:併発疾患(貧血や腎臓病、肝臓病など)、甲状腺機能の評価
・尿検査:併発疾患(腎臓病など)の評価
・レントゲン検査:遠隔転移の評価
・超音波検査:甲状腺の周囲組織の評価
・CT検査:がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移の評価
※CT検査はより綿密な治療方針を決定するうえで推奨される検査です。周囲組織に広がっている可能性、転移している可能性が高い場合は必須の検査となります。
甲状腺癌(赤丸)と周囲の血管(赤矢印)と正常な甲状腺(青丸)
治療
がんの治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和治療」があります。
「根治治療(積極的治療)」とはがんと闘う治療であり、がんをできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。根治治療(積極的治療)は長期生存(一般的には年単位)を目的とした治療であり、がんを治すことができる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いがんでは、根治治療(積極的治療)を行ったとしても数カ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療(積極的治療)では主に「手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療・分子標的治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
一方、「緩和治療」とは、がんによる苦痛を和らげることを目的とした治療です。緩和治療は長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(一般的には月単位)であってもその期間の動物の生活の質を改善するために行う治療です。緩和治療では主に「痛みの治療」、「栄養治療」、「症状を和らげる治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
・甲状腺癌の根治治療(積極的治療)
腫瘍が周囲組織に広がっておらず、転移がない場合、根治治療として手術が適応となります。また、病理診断の結果次第では、手術後に抗がん剤などが適応となる場合があります。
一方、腫瘍が周囲組織に広がっており、手術が困難と判断される場合、放射線治療が適応となります。
・甲状腺癌の緩和治療
腫瘍がすでに遠隔転移している場合、根治治療は適応とならない場合が多いです。ただし、甲状腺癌は遠隔転移している場合でも進行がゆっくりなことも多く、手術によるメリットが大きい場合は、手術を行い、その後分子標的薬などを使用する場合もあります。
予後
腫瘍が周囲組織に広がっていない場合、手術を行うことで根治が期待できる可能性が高いです。
腫瘍が周囲に広がっている場合や転移しており、手術が適応ではない場合でも、放射線治療や分子標的薬などを組み合わせることで年単位の生存が期待できることもあります。
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