病気紹介

犬の胃腸腺癌

病態

胃や小腸、大腸に存在する腺細胞が腫瘍化した悪性腫瘍(がん)です。

犬の胃腸腺癌は主に中高齢で発生し、胃腸に発生するがんの中ではリンパ腫と並んで最も多いです。

犬の胃腸腺癌の浸潤性や転移は発生部位により異なり、胃・小腸・大腸の順に浸潤性が強く(粘膜沿いあるいは漿膜を破って浸潤)、転移も起こりやすい(リンパ節や肝臓など)です。

直腸に発生した腺癌(赤丸)

症状

・胃腺癌
嘔吐が最も多い症状です。その他、食欲低下や体重減少、下痢などが認められます。

・小腸腺癌
食欲低下、嘔吐、体重減少、下痢などが認められます。

・大腸腺癌
血便、下痢、排便困難などが認められます。

※これらの症状は数日〜1・2ヶ月かけて進行していきます。一方、腫瘍により胃や腸が破れたり、腸閉塞が起こると急に状態が悪くなる場合もあります。

診断

胃腸腺癌の診断には針生検(細い針をさして細胞を採取する検査)が有用ですが、胃腺癌や大腸腺癌は場所的に針生検が難しい場合も多く、その場合は内視鏡による生検が有用となります。一方、小腸腺癌は場所的に針生検できる場合が多いですが、内視鏡が届かない場合が多く、内視鏡による生検は難しい場合が多いです。

針生検で採取された腺癌

ステージングおよび併発疾患の評価

胃腸腺癌と診断した場合、がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(肝臓などへの転移)の評価を行います。これをステージングといいます。

同時に併発疾患がないかどうかも評価します。

これらの評価には以下の検査を組み合わせて行い、評価を基に治療方針を決定します。

・血液検査:併発疾患(貧血や腎臓病、肝臓病など)の評価
・尿検査:併発疾患(腎臓病など)の評価
・レントゲン検査:遠隔転移の評価
・腹部超音波検査:がんの位置、大きさ、広がり、リンパ節転移の評価
・CT検査:がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移の評価
※胃腺癌や小腸腺癌の場合、浸潤性が強く、比較的転移も認められるため、CT検査は必須の検査です

小腸腺癌のCT画像(赤丸)

・リンパ節の針生検:リンパ節転移の評価
・内視鏡検査:がんの広がりの評価
※胃腺癌や大腸腺癌の場合、どこまで広がっているかを腸の内側から確認することが必要なため、内視鏡検査は必須の検査です

小腸腺癌の内視鏡画像(左:胃腺癌、右:直腸腺癌)

治療

がんの治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和治療」があります。

「根治治療(積極的治療)」とはがんと闘う治療であり、がんをできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。根治治療(積極的治療)は長期生存(一般的には年単位)を目的とした治療であり、がんを治すことができる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いがんでは、根治治療(積極的治療)を行ったとしても数カ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療(積極的治療)では主に「手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療・分子標的治療」を単独あるいは組み合わせて行います。

一方、「緩和治療」とは、がんによる苦痛を和らげることを目的とした治療です。緩和治療は長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(一般的には月単位)であってもその期間の動物の生活の質を改善するために行う治療です。緩和治療では主に「痛みの治療」、「栄養治療」、「症状を和らげる治療」を単独あるいは組み合わせて行います。

・胃腸腺癌の根治治療(積極的治療)

根治治療(積極的治療)として手術(腫瘍の切除と必要であればリンパ節の切除)が適応となります。

術後に抗がん剤、分子標的薬などが適応となる場合もあります。

・胃腸腺癌の緩和治療

腫瘍がすでに広範囲に広がっている場合や遠隔転移している場合は、根治治療は適応となりません。

その場合は、痛みの緩和や腫瘍の進行を遅らせる治療(分子標的薬や免疫療法など)が選択されます。

一方、症状の緩和を目的に手術が行われることもあり、手術を行うことで劇的に症状が改善する場合もあります。

予後

・胃腺癌
診断時には、手術が適応とならないほど進行している場合が多いため、予後は悪く、多くが3ヶ月以内に亡くなってしまいます。

一方、腫瘍が胃の一部に限局しており、手術が適応な場合、手術により年単位の生存が可能な場合もあります(手術を行った場合、約20%が1年以上生存)。

・腸腺癌
根治治療(積極的治療)を行った場合、生存期間中央値は7〜15ヶ月程度と報告されており、比較的最近(2019年)の報告では、根治治療(積極的治療)を行うことで1年生存率60%、2年生存率36%と報告されています。

一方、治療しない場合、生存期間中央値は12日と報告されています。

そのため、症状を改善させ、年単位の長期生存を目指すためには手術が推奨されます。

・大腸腺癌
大腸腺癌は、がんの浸潤によりかなり予後は異なり、ポリープ様の場合は手術を行うことで年単位の生存が期待できます。

一方、腸の全周にがんが浸潤している場合は、手術が困難な場合も多く、年単位の生存は困難な場合が多いです。

 

愛犬が胃腸腺癌を患ってしまい、ご不安な方は当院にご相談ください。

 

当院では、獣医腫瘍科認定医による腫瘍科専門外来を行なっております。

詳細は下記のリンクをご参照ください。

https://www.kamogawa-ac.jp/cancer-treatment-specialty/