犬の膵臓腫瘍(インスリノーマ)

病態
膵臓には様々な腫瘍が発生しますが、その中で膵臓のβ細胞(インスリンを分泌する細胞)が腫瘍化した腫瘍をインスリノーマといいます。
インスリノーマは、犬で最も多く発生する膵臓腫瘍で、人では良性の場合が多いですが、犬ではそのほとんどが悪性(がん)です。
主に中高齢(平均年齢9~10歳)で発生しますが若齢でも発生します。
インスリンが過剰に分泌されるため、低血糖が引き起こされ、それによりがんが見つかる場合がほとんどです。
インスリノーマは診断した時点で約50%が転移していると考えられており、リンパ節や肝臓に転移します。
症状
痙攣や運動失調、虚弱、震えなど低血糖による症状がみられます。特に絶食時、運動時、興奮時、採食時にみられやすいです。
診断
確定診断には手術による病理組織検査が必要になりますが、低血糖を引き起こす他の病気が除外され、インスリンの数値が基準値内あるいは高値を示す場合、インスリノーマの可能性が高くなります。
ステージングおよび併発疾患の確認
インスリノーマが疑わしい場合、がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(肝臓などへの転移)の評価を行います。これをステージングといいます。
同時に併発疾患がないかどうかも評価します。
これらの評価には以下の検査を組み合わせて行い、評価を基に治療方針を決定します。
・血液検査:低血糖、併発疾患(貧血や腎臓病、肝臓病など)の評価
・尿検査:併発疾患(腎臓病、膀胱炎など)の評価
・レントゲン検査:併発疾患の評価
・超音波検査:リンパ節転移、遠隔転移の評価
・CT検査:がんの発生位置、リンパ節転移、遠隔転移の評価
※CT検査はより綿密な治療方針を決定するうえで必須の検査です
しかし、これらの検査を行っても10〜20%程度はインスリノーマを検出できない場合もあり、低血糖およびインスリンの数値が基準値内あるいは高値を示し、インスリノーマの可能性が高い場合は試験開腹にてインスリノーマの探索が必要な場合もあります。
犬のインスリノーマのステージ分類
ステージ | |
1 | 膵臓に限局 |
2 | リンパ節転移あり |
3 | 遠隔転移あり |
治療
がんの治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和治療」があります。
「根治治療(積極的治療)」とはがんと闘う治療であり、がんをできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。根治治療(積極的治療)は長期生存(一般的には年単位)を目的とした治療であり、がんを治すことができる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いがんでは、根治治療(積極的治療)を行ったとしても数カ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療(積極的治療)では主に「手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療・分子標的治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
一方、「緩和治療」とは、がんによる苦痛を和らげることを目的とした治療です。緩和治療は長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(一般的には月単位)であってもその期間の動物の生活の質を改善するために行う治療です。緩和治療では主に「痛みの治療」、「栄養治療」、「症状を和らげる治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
・インスリノーマの根治治療(積極的治療)
根治治療として手術(膵臓部分切除と必要であればリンパ節切除、肝臓生検)を行い、その後状況に応じて抗がん剤治療や分子標的治療が適応となります。
・インスリノーマの緩和治療
腫瘍がすでに遠隔転移している場合(ステージ3)、根治治療は適応とならない場合が多いです。
その場合は、腫瘍の進行を遅らせる治療(抗がん剤や分子標的治療など)や低血糖の管理(食事療法や薬による治療)が選択されます。
ただし、遠隔転移している場合でも、低血糖の改善のために手術を行う場合もあります。
予後
ステージ1あるいは2では、根治治療(積極的治療)を行った場合、年単位の長期生存が期待できます。
手術を行わず薬による治療を行った場合、年単位の長期生存は期待できない場合が多いため、ステージ1あるいは2では積極的な手術が推奨されています。
一方、ステージ3では、根治治療が適応とならない場合も多く、生存期間中央値は6ヶ月であり、ステージ1、2と比較すると予後は悪いです。
ただし、ステージ3であったとしても手術で腫瘍の量を減らすことで低血糖が改善し、生活の質が上がる場合もあります。
愛犬がインスリノーマを患ってしまい、ご不安な方は当院にご相談ください。
当院では、獣医腫瘍科認定医による腫瘍科専門外来を行なっております。
詳細は下記のリンクをご参照ください。