犬の鼻腔内腫瘍(腺癌)

病態
鼻の中の腺細胞が腫瘍化した悪性腫瘍(がん)です。
主に高齢(平均年齢は10歳)で発生しますが、若齢で発生する場合もあります。
鼻腔内腺癌は犬でみられる鼻腔内腫瘍で最も多いがんで、局所浸潤性は強い(骨や眼窩、脳などへの浸潤)ですが、転移は鼻腔内腺癌が診断される時点では比較的まれです。転移部位としてはリンパ節や肺が多いです。
症状
くしゃみや鼻汁、いびきなどが認められ、さらに進行すると片側性の鼻出血や顔面の変形などが認められるようになります。
人と違い、日常生活でわんちゃんに鼻出血が認められることは稀であり、鼻出血が認められた際(特に片側からの鼻のみ)は、鼻腔内腫瘍の可能性が高くなります。
一方、くしゃみや鼻汁などはその他の病気でも認められ、他の腫瘍と異なり、しこりを形成することが少なく、鼻腔内腺癌と診断されるまでには症状が出始めてから平均2〜3ヶ月要すると考えられています。
診断
鼻腔内腺癌は鼻腔内に発生するため、多くの場合、鼻腔内からの組織生検(できものの一部を採取する検査)が必要となります。一方、進行すると骨が破壊され、顔面の変形が認められることがありますので、そこからの針生検(細い針をさして細胞を採取する検査)で診断が可能な場合もあります。
ステージングおよび併発疾患の評価
鼻腔内腺癌が疑わしい場合、がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(肺などへの転移)の評価を行います。これをステージングといいます。
同時に併発疾患がないかどうかも評価します。
これらの評価には以下の検査を組み合わせて行い、評価を基に治療方針を決定します。
・血液検査:併発疾患(貧血や腎臓病、肝臓病など)の評価
・尿検査:併発疾患(腎臓病など)の評価
・レントゲン検査:鼻腔内の評価、遠隔転移の評価
・CT検査:がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移の評価
※鼻腔内腺癌の場合、鼻腔内の組織生検を行う位置の確認、骨や眼窩、脳などへの浸潤の評価のため、CT検査は必須の検査です
鼻腔内腺癌のCT画像(赤丸:腫瘍のある鼻腔内、青丸:正常な鼻腔内)
・MRI検査:特に脳への浸潤の評価のために実施される場合があります
・リンパ節の針生検:リンパ節転移の評価
犬の鼻腔内腺癌のステージ分類
ステージ | |
1 | 骨融解はなく、片側の鼻道、副鼻腔、前頭洞に限局 |
2 | 骨融解がみられるが、皮下・眼窩・粘膜下への浸潤はみられない |
3 | 皮下あるいは眼窩あるいは粘膜下あるいは鼻咽頭への浸潤 |
4 | 篩板の骨融解がみられる |
治療
がんの治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和治療」があります。
「根治治療(積極的治療)」とはがんと闘う治療であり、がんをできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。根治治療(積極的治療)は長期生存(一般的には年単位)を目的とした治療であり、がんを治すことができる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いがんでは、根治治療(積極的治療)を行ったとしても数カ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療(積極的治療)では主に「手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療・分子標的治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
一方、「緩和治療」とは、がんによる苦痛を和らげることを目的とした治療です。緩和治療は長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(一般的には月単位)であってもその期間の動物の生活の質を改善するために行う治療です。緩和治療では主に「痛みの治療」、「栄養治療」、「症状を和らげる治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
・鼻腔内腺癌の根治治療(積極的治療)
鼻腔内腺癌は鼻の中の組織から発生するため、手術で取り除くことは不可能な場合が多いです。
そのため、根治治療(積極的治療)として、主に放射線治療が行われます。
また、放射線治療後に分子標的薬などが適応となる場合もあります。
・鼻腔内腺癌の緩和治療
篩板の骨融解がみられる場合(ステージ4)、根治治療(積極的治療)は適応となりません。
しかし、その場合でも、痛みの緩和や腫瘍の進行を遅らせることを目的として放射線治療や分子標的治療、免疫療法などが適応となる場合もあります。
予後
ステージ1〜3の鼻腔内腺癌で根治治療(積極的治療)を行なった場合の生存期間中央値は約1年程度ですが、予後は幅広く、根治治療(積極的治療)を行なったとしても数ヶ月しか生存できない症例もいれば、数年生存する症例もいます。
一方、ステージ4の場合、予後は比較的悪く、数ヶ月〜半年程度で亡くなってしまう場合が多いです。
また、腫瘍の進行の程度にもよりますが、ステージ1〜3でも無治療の場合、生存期間中央値は約3ヶ月程度と報告されています。
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