猫の腎臓腫瘍(腎腺癌)

病態
腎臓の細胞が腫瘍化した悪性腫瘍(がん)で、腎臓に発生する悪性腫瘍ではリンパ腫に次いで多く、主に片側に発生します。
猫の腎腺癌の報告は非常に少ないですが、診断した時点で約20%が転移していると考えられており、主にリンパ節や肺に転移します。
また、頻度は多くありませんが、腎腺癌により赤血球増加症がみられることもあります。
症状
健康診断や他の病気の検査の際に見つかる場合もありますが、多くは体重減少、元気・食欲の低下、血尿、疼痛などがみられます。
診断
腎腺癌の診断には針生検(細い針をさして細胞を採取する検査)が有用ですが、細胞が採取されない場合もあります。
その場合、組織生検(できものの一部を採取する検査)による病理診断が必要となりますが、検査で腎腺癌が疑わしい場合は、手術で切除し、病理組織検査で診断することが多いです。
ステージングおよび併発疾患の確認
腎腺癌が疑わしい場合、がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(肺などへの転移)の評価を行います。これをステージングといいます。
同時に併発疾患がないかどうかも評価します。
これらの評価には以下の検査を組み合わせて行い、評価を基に治療方針を決定します。
・血液検査:赤血球増加症の評価、併発疾患(腎臓病、肝臓病など)の評価
・尿検査:併発疾患(腎臓病など)の評価
・レントゲン検査:がんの大きさ、遠隔転移(肺など)の評価
・尿検査:併発疾患(腎臓病など)の評価
・腹部超音波検査:がんの大きさや広がり、リンパ節転移の評価
腎腺癌の超音波画像(赤丸)(青丸は正常な腎臓)
・CT検査:がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移の評価、腫瘍と反対側の腎臓の評価
※CT検査はより綿密な治療方針を決定するうえで推奨される検査です
腎腺癌のCT画像(赤丸)(青丸は反対側の正常な腎臓)
治療
がんの治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和治療」があります。
「根治治療(積極的治療)」とはがんと闘う治療であり、がんをできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。根治治療(積極的治療)は長期生存(一般的には年単位)を目的とした治療であり、がんを治すことができる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いがんでは、根治治療(積極的治療)を行ったとしても数カ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療(積極的治療)では主に「手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療・分子標的治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
一方、「緩和治療」とは、がんによる苦痛を和らげることを目的とした治療です。緩和治療は長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(一般的には月単位)であってもその期間の動物の生活の質を改善するために行う治療です。緩和治療では主に「痛みの治療」、「栄養治療」、「症状を和らげる治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
・腎腺癌の根治治療(積極的治療)
根治治療として手術が適応となります。
また、病理診断の結果次第では、手術後に抗がん剤などが適応となる場合があります。
・腎腺癌の緩和治療
腫瘍が転移している場合や腫瘍と反対側の腎臓の機能が失われている場合、根治治療は適応となりません。
その場合は、痛みの緩和や腫瘍の進行を遅らせる治療(分子標的治療など)が選択されます。
また、痛みなどで動物の生活の質が落ちるようであれば、転移があったとしても緩和治療として手術が適応となる場合もあります。
予後
猫の腎腺癌はまれな病気であり、予後に関する報告は非常に少ないです。その中でも2023年に報告されたものでは、手術を行い、入院期間を乗り越えた場合の生存期間中央値は1217日と報告されており、長期的な予後は良好である可能性があります。
一方で、転移している場合や反対側の腎臓の機能が失われている場合などは長期的な予後は不良と考えられます。
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