病気紹介

犬の前立腺癌

病態

前立腺の細胞が腫瘍化した悪性腫瘍(がん)です。

主に高齢(平均年齢10歳)で発生し、去勢している犬にも去勢していない犬にも発生します。

前立腺癌は局所浸潤性の強い腫瘍であり、尿道が塞がり、尿が出なくなる可能性があります。

また、転移率も比較的高く、診断した時点で約30%がリンパ節転移、約50%が遠隔転移(主に肺や骨)していると考えられています。

症状

血尿や頻尿、排尿困難、しぶり、排便困難、便の扁平化などその他の前立腺疾患(過形成、嚢胞、膿瘍など)に類似した症状を示す場合が多いです。さらに進行すると元気や食欲の低下などがみられます。

診断

尿道から前立腺に細いカテーテルを挿入し、組織を採材することで診断します。

その他、BRAF遺伝子検査、HER2遺伝子検査も前立腺癌を診断する一助となります。

ステージングおよび併発疾患の確認

前立腺癌と診断した場合、がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(肺、骨などへの転移)の評価を行います。これをステージングといいます。

同時に併発疾患がないかどうかも評価します。

これらの評価には以下の検査を組み合わせて行い、評価を基に治療方針を決定します。

・血液検査:併発疾患(貧血や腎臓病、肝臓病など)の評価
・尿検査:併発疾患(腎臓病、膀胱炎など)の評価
・直腸検査:前立腺の大きさや対称性、痛みの評価、リンパ節の評価
・レントゲン検査:前立腺の石灰化やリンパ節転移、遠隔転移(肺や骨など)の評価

前立腺癌のレントゲン画像(赤丸は石灰化した前立腺、青丸は膀胱)
・超音波検査:がんの大きさや広がり、リンパ節転移の評価
・CT検査:がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移の評価

治療

がんの治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和治療」があります。

「根治治療(積極的治療)」とはがんと闘う治療であり、がんをできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。根治治療(積極的治療)は長期生存(一般的には年単位)を目的とした治療であり、がんを治すことができる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いがんでは、根治治療(積極的治療)を行ったとしても数カ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療(積極的治療)では主に「手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療・分子標的治療」を単独あるいは組み合わせて行います。

一方、「緩和治療」とは、がんによる苦痛を和らげることを目的とした治療です。緩和治療は長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(一般的には月単位)であってもその期間の動物の生活の質を改善するために行う治療です。緩和治療では主に「痛みの治療」、「栄養治療」、「症状を和らげる治療」を単独あるいは組み合わせて行います。

・前立腺癌の根治治療(積極的治療)

明らかな浸潤や転移がない場合、根治治療として手術(前立腺摘出と必要であればリンパ節切除)を行い、その後に抗がん剤治療や分子標的治療、非ステロイド性の抗炎症薬が適応となります。

また、様々な理由から手術が許容できない場合は、抗がん剤治療や分子標的治療、非ステロイド性の抗炎症薬が適応となります。

・前立腺癌の緩和治療

腫瘍がすでに浸潤あるいは転移している場合、根治治療は適応とならない場合が多いです。

その場合は、腫瘍の進行を遅らせる治療(抗がん剤や分子標的治療など)や疼痛管理、免疫療法が選択されます。

また、腫瘍で尿道が塞がり、排尿できなくなる場合は、尿道ステント、膀胱造瘻術などが適応となる場合もあります。

予後

以前は、前立腺癌の予後は非常に悪いと考えられていましたが、最近の報告では、明らかな浸潤や転移がない場合、根治治療を行なった場合の生存期間中央値は510日であり、年単位の生存が期待できます。

一方、周囲組織への浸潤や転移がある場合、根治治療は適応とならず、緩和治療を行なった場合の生存期間中央値は約200日であり、予後は悪いです。ただし、この場合でも、適切な緩和治療を行うことで動物の生活の質を改善させることは可能です。

治療しない場合の生存期間中央値は約1ヶ月であり、予後は非常に悪いです。

愛犬が前立腺癌を患ってしまい、ご不安な方は当院にご相談ください。

 

当院では、獣医腫瘍科認定医による腫瘍科専門外来を行なっております。

詳細は下記のリンクをご参照ください。

https://www.kamogawa-ac.jp/cancer-treatment-specialty/