病気紹介

犬の副腎腫瘍(褐色細胞腫)

病態

副腎は腎臓の近くにある臓器で、様々なホルモン(鉱質コルチコイド、糖質コルチコイド、性ホルモン、カテコラミン)を分泌します。

この副腎には良性腫瘍、悪性腫瘍、転移性腫瘍など様々な腫瘍が発生します。

その中でも褐色細胞腫は副腎に発生する最も一般的な悪性腫瘍です。褐色細胞腫の転移率は報告によって様々ですが10~40%程度であり、カテコラミンというホルモンを過剰に分泌することでさまざまな症状を引き起こす可能性があります(症状の項を参照)。また、40〜80%程度が血管内に腫瘍が入り込み、腫瘍の塊(腫瘍栓)を形成します。

症状

健康診断の際やその他の病気の検査の際に見つかることもありますが、ホルモンを過剰に分泌することで急に倒れたり、落ち着きがなくなったりなどの症状を引き起こすこともあります。しかし、褐色細胞腫から放出されるカテコラミンというホルモンは断続的に放出されるため、症状も断続的に認められ、症状のみで褐色細胞腫と診断することはできません。また、まれですが、腫瘍が破裂することで出血が起こり、急にぐったりすることもあります。

診断

褐色細胞腫の確定診断には手術で切除し、病理組織検査を行う必要があります。

針生検(細い針をさして細胞を採取する検査)で診断できることもありますが、出血のリスクが高く、基本的には行われません。

画像検査(エコー検査やCT検査)では確定することはできませんが、褐色細胞腫を疑うことは可能です。

また、尿中のノルメタネフリンやメタネフリンの値が診断の一助となる可能性があります。

ステージングおよび併発疾患の確認

褐色細胞腫が疑わしい場合、がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(肝臓、肺などへの転移)の評価を行います。これをステージングといいます。

同時に併発疾患がないかどうかも評価します。

これらの評価には以下の検査を組み合わせて行い、評価を基に治療方針を決定します。

・血液検査:併発疾患(腎臓病、肝臓病など)の評価
・血圧検査:高血圧の評価
・尿検査:併発疾患(腎臓病など)の評価、尿中ノルメタネフリン・メタネフリンの評価
・レントゲン検査:遠隔転移(肺など)の評価
・腹部超音波検査:がんの大きさや広がり、遠隔転移(肝臓など)の評価
・CT検査:がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(肝臓、肺など)の評価
※CT検査はより綿密な治療方針を決定するうえで必須の検査です

褐色細胞腫のCT画像(赤丸:副腎褐色細胞腫、青矢印:動脈)

治療

がんの治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和治療」があります。

「根治治療(積極的治療)」とはがんと闘う治療であり、がんをできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。根治治療(積極的治療)は長期生存(一般的には年単位)を目的とした治療であり、がんを治すことができる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いがんでは、根治治療(積極的治療)を行ったとしても数カ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療(積極的治療)では主に「手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療・分子標的治療」を単独あるいは組み合わせて行います。

一方、「緩和治療」とは、がんによる苦痛を和らげることを目的とした治療です。緩和治療は長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(一般的には月単位)であってもその期間の動物の生活の質を改善するために行う治療です。緩和治療では主に「痛みの治療」、「栄養治療」、「症状を和らげる治療」を単独あるいは組み合わせて行います。

・褐色細胞腫の根治治療(積極的治療)

根治治療として手術が適応となります。

・褐色細胞腫の緩和治療

様々な状況により手術が困難な場合、緩和治療が行われます。

褐色細胞腫により高血圧などがみられる場合は、薬による治療が行われます。また状況に応じて放射線治療や分子標的治療、免疫療法などを行うこともあります。

予後

褐色細胞腫の場合、転移がなく、手術を乗り越えれば、年単位の比較的長期生存が可能です。一方、手術を行わなかった場合の予後はよくわかっておらず、症状の有無、腫瘍の大きさ、腫瘍栓の有無、転移の有無により異なります。

愛犬が褐色細胞腫を患ってしまい、ご不安な方は当院にご相談ください。

 

当院では、獣医腫瘍科認定医による腫瘍科専門外来を行なっております。

詳細は下記のリンクをご参照ください。

https://www.kamogawa-ac.jp/cancer-treatment-specialty/