猫の乳腺腫瘍(乳腺癌)

病態
高齢(平均年齢:10~12歳)の雌猫での発生が多いですが、若齢の雌猫や雄猫でもまれに発生します。
猫の乳腺腫瘍は、悪性が圧倒的に多く、約80%が悪性腫瘍(乳腺癌)です。
次いで多いのが乳腺過形成で、これは良性疾患ですが、前癌病変と考えられており、そのまま放置しておくとそのうち悪性腫瘍となる可能性があります。
一方、良性の乳腺腫瘍は1%未満と非常にまれです。
猫の乳腺腫瘍は早期に避妊手術を行うことで、発生率を下げることが可能な腫瘍となります(下表参照)。
| 年齢 | 乳腺腫瘍の発生率 |
| 6ヶ月齢未満 | 91%低下させる |
| 7〜12ヶ月齢 | 86%低下させる |
| 13〜24ヶ月齢 | 11%低下させる |
24ヶ月齢以降に避妊手術を行っても発生率を下げることはできません。
症状
乳腺腫瘍は健康診断の際やご家族が乳腺のしこりに気づいて見つかり、症状を伴わないこともあります。
しかし、しこりに気づいていてもそのまま経過をみていると腫瘍からの出血や痛みなどがみられ、元気や食欲がなくなってしまう場合もあります。
診断
乳腺腫瘍の診断には針生検が推奨され、乳腺の細胞が採取されているかどうかを確認します。
ステージングおよび併発疾患の確認
乳腺腫瘍と診断した場合、がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(肺などへの転移)の評価を行います。これをステージングといいます。
同時に併発疾患がないかどうかも評価します。
これらの評価には以下の検査を組み合わせて行い、評価を基に治療方針を決定します。
・血液検査:併発疾患(貧血や腎臓病、肝臓病など)の評価
・尿検査:併発疾患(腎臓病など)の評価
・レントゲン検査:遠隔転移の評価

乳腺腫瘍の肺転移のレントゲン画像
・超音波検査:リンパ節転移、遠隔転移の評価

乳腺腫瘍の肺転移のエコー画像(赤矢印)
・CT検査:がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移の評価
※CT検査はより綿密な治療方針を決定するうえで推奨される検査です。

乳腺腫瘍のリンパ節転移(赤矢印)のCT画像
・リンパ節の針生検:リンパ節転移の評価
猫の乳腺腫瘍のステージ分類
| ステージ | 腫瘍の大きさ | リンパ節転移 | 遠隔転移 |
| 1 | 2cm未満 | なし | なし |
| 2 | 2〜3cm | なし | なし |
| 3 | 3cm以上 | なし | なし |
| 大きさは問わない | あり | なし | |
| 4 | 大きさは問わない | 転移の有無は問わない | あり |
治療
がんの治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和治療」があります。
「根治治療(積極的治療)」とはがんと闘う治療であり、がんをできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。根治治療(積極的治療)は長期生存(一般的には年単位)を目的とした治療であり、がんを治すことができる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いがんでは、根治治療(積極的治療)を行ったとしても数カ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療(積極的治療)では主に「手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療・分子標的治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
一方、「緩和治療」とは、がんによる苦痛を和らげることを目的とした治療です。緩和治療は長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(一般的には月単位)であってもその期間の動物の生活の質を改善するために行う治療です。緩和治療では主に「痛みの治療」、「栄養治療」、「症状を和らげる治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
・乳腺腫瘍の根治治療(積極的治療)
根治治療として手術(片側あるいは両側乳腺切除およびリンパ節郭清)が適応となります。
また、病理診断の結果次第で手術後に抗がん剤が適応となる場合があります。
・乳腺腫瘍の緩和治療
腫瘍がすでに肺などに転移している場合(ステージ4)、根治治療は適応となりません。
その場合は、痛みの緩和や腫瘍の進行を遅らせる治療(分子標的薬など)が選択されます。
また、腫瘍からの出血や痛みで動物の生活の質が落ちるようであれば、転移があったとしても緩和治療として手術が適応となる場合もあります。
予後
腫瘍が小さく、リンパ節転移がみられない場合(ステージ1あるいは2)、根治治療を行うことで年単位の生存が期待できます。
一方、腫瘍が大きく、リンパ節転移や肺転移がある場合(ステージ3あるいは4)、予後は悪く、1年以内に亡くなってしまう場合が多いです。
しかし、これらの場合でも、積極的に手術や分子標的薬を使用することで、年単位で生存できる場合もあります。
動物病院の先生方へ
当院は、各専門診療科を備え、幅広い高度医療を提供しております。
貴院からの症例紹介や症例相談も随時受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。
詳細は下記のリンクをご参照ください。
https://www.kamogawa-ac.jp/introduction/
飼い主様へ
当院では、獣医腫瘍科認定医による腫瘍科専門外来を行っております。
詳細は下記のリンクをご参照ください。

