犬
元気がない、ぐったり/食欲がない/下痢・軟便/嘔吐・吐出
消化器科(腸の病気・肝臓の病気)
犬の炎症性腸疾患(ステロイド反応性腸症)

動物 | 犬 |
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種類 | フレンチ・ブルドッグ |
性別 | 避妊雌 |
年齢 | 8歳 |
地域 | 京都府宇治市 |
症状/病態 | 体重減少、軟便 |
考えられる病気 | 慢性腸症、腫瘍、寄生虫、ホルモン疾患など |
元気と食欲はあるが数か月ほど前から体重減少と軟便が続き、消化器系療法食や下痢止め、抗菌薬などの治療に反応しないことを主訴に来院されました。
元々体重が10キロ近くあったとのことでしたが来院時は7.28キロまで減少しており、削痩が認められました。
血液検査にてアルブミン値の低下、炎症マーカーであるCRP値の上昇が認められ、腹部エコー検査にて小腸の一部の粘膜に異常が認められました。
エコーで正常の小腸の断面(左側)は内側から①内腔(食渣)~粘膜表面 ②粘膜 ③粘膜下織 ④筋層 ⑤漿膜の5層構造がきれいに見えます。
しかしこの症例の小腸の一部(右側)では②粘膜が白っぽくなり腫れているような所見が認められました。
臨床症状と各種検査より小腸の炎症や腫瘍の可能性を考えて内視鏡下での腸粘膜の生検を実施しました。
以下内視鏡検査の画像を示します。
内視鏡を胃から十二指腸へと進めると、明らかな腸粘膜の異常がみられました。
腸粘膜の表面には絨毛と呼ばれるヒダが無数にありますが、それらが腫れてしまっている様子でした。
さらに内視鏡を進めていくと異常はより顕著にみられました。
ちなみにこれは正常な腸粘膜の所見です。
内視鏡下にて生検鉗子と呼ばれる器具で腸粘膜を採材し病理検査に提出しました。
結果はリンパ球形質細胞性~混合細胞性小腸炎との診断で、腸の慢性的な炎症による所見であり、感染の関与や腫瘍が否定的であることが考えられました。
既往歴より食事や抗菌薬の反応に乏しかったことから炎症性腸疾患(ステロイド反応性腸症)と診断しステロイド(プレドニゾロン)の投与を開始しました。
治療反応はよく数日で臨床症状の改善が認められ、アルブミン値やCRP値などの検査項目も正常値に戻りましたが、多飲多尿や肝数値の上昇などステロイドの副作用が現れ始めました。
今回は病態から高用量のステロイド投与が必要であり、一定の副作用は避けられないことが多いですが、長期投与はできないため徐々にステロイドの量を減らしていく必要があります。
しかしステロイドを最初の量の半分まで減らした段階で、臨床症状や検査項目に再発の兆候がみられたため、ステロイド単剤でのコントロールは難しいと判断し免疫抑制剤(シクロスポリン)を追加しました。
免疫抑制剤は飲み始めてから効果が出るまで数週間かかりますが、ステロイドと比べて副作用が少なく長期投与の可能なお薬です。
免疫抑制剤を飲み始めて1週間ほどで臨床症状や検査項目の改善がみられたため、再度ステロイドの減量を進めていきました。
そして治療開始から5カ月でステロイドを完全に休薬し、免疫抑制剤のみでの病気のコントロールが可能となりました。
現時点でのお薬の副作用は認められませんでしたが、長期投与による影響も考えて免疫抑制剤も徐々に減量していきました。
そして治療開始から約1年で免疫抑制剤を休薬し、消化器系の療法食と腸内環境のサプリだけで元気に暮らしています。
7キロほどだった体重は10キロ近くまで増え、病気になる前の元気な状態に戻りつつあります。
今回はステロイドと免疫抑制剤でうまく管理できた炎症性腸疾患の一例ですが、難治性の病態もあり免疫抑制剤の変更や再生医療、抗ガン剤など他の治療を選択する場合もあります。
病態によっては、低悪性度の消化器型リンパ腫との鑑別が難しいこともあり厄介な病気です。
愛犬のうんちの状態だけでなく、体重減少など気になることがあれば是非当院にご相談ください。