犬
口の中のできもの
腫瘍科(ガン)/外科
犬の骨肉腫(上顎骨切除)
動物 | 犬 |
---|---|
種類 | ウェルシュ・コーギー・ペンブローク |
性別 | 去勢雄 |
年齢 | 7歳 |
地域 | 京都市北区 |
症状/病態 | 左上顎歯肉の腫れ |
考えられる病気 | 腫瘍(悪性黒色腫、扁平上皮癌、線維肉腫、骨肉腫など)、歯根膿瘍など |
左上顎の歯肉部が腫れているとのことで来院しました。
触ると痛みがあり、見た目のみでは病気の判断が困難なため、まずは麻酔下でCT検査、針生検(細い針をさして細胞を採取する検査)、組織生検(できものの一部を採取する検査)を行いました。CT検査では骨への浸潤が認められ、針生検と組織生検でも悪性腫瘍(悪性黒色腫や線維肉腫、骨肉腫など)と診断されたため、上顎骨を一部含めた手術を行うこととしました。
骨を切り取る手術は、「痛そう」、「見た目が変わりそう」、「食べれなくなりそう」など様々な理由によりなかなか受け入れ難い手術ですが、痛みに関しては手術後数日程度であり、適切な痛み止めにより多くの動物が許容できる程度の痛みです。また、手術をする範囲にもよりますが、見た目の変化は軽度な場合も多く、多くのわんちゃんが術後数日でご飯を食べることができるようになります。一方、手術をせずにそのまま放置しておくと、痛みが強くなり、見た目も変わり、最終的には口からご飯を食べることができなくなってしまいます。当院ではこのようなことを手術前にご家族にしっかり説明し、手術を行うかどうか考えてもらうようにしています。
以下、手術の写真となります。苦手な方はご注意ください(写真や動画はご家族のご承諾のもとあげさせていただいております)。
口腔内悪性腫瘍は粘膜や骨への浸潤が強く、腫瘍のみの切除では再発する可能性が高いため、腫瘍から1cm程度離れた周囲の正常な粘膜(青線)と骨を一緒に切除する計画を立てました。
上顎の粘膜下には細かい血管(黄色矢印)が無数にあるため、できるだけ出血させないよう丁寧に処理していきます。
今回の手術ではCT上、眼窩下動脈・静脈・神経(黄色矢印)を結ぶ必要があったため、骨を切除する際に、動脈・静脈・神経を損傷しないよう丁寧に周囲組織より分離し、結紮しました。
腫瘍切除後の写真です。
切除後は縫合に入ります。まずは骨と粘膜下組織を縫合します(左:縫合前、右:縫合後)。
最後に粘膜同士を縫合して手術終了です。このように二層縫合することで糸ができるだけ切れてしまわないようにしています。
手術の次の日には散歩も行くことができ、明らかな痛みは認められませんでした。ご飯に関しては口の手術なので縫合部位に影響が出ないように食道チューブからあげることとしました。状態はよかったため、術後5日目に退院、傷口が問題ないことを確認し、術後7日目に食道チューブを抜き、口からご飯をあげるようにしました。
術後の顔の写真です(左:術後19日目、右:術後139日目)。術後は毛がないため、少し目立ちますが、毛が生えると手術の部位によっては見た目の変化も最小限です。
病理診断は骨肉腫であり、ご家族と相談し、術後に抗がん剤を行うこととしました。現在は元気、食欲とも問題なく、一般状態良好です。
顎の骨の手術は比較的大きな手術となり、見た目も変わるため、なかなか受け入れ難い手術ですが、手術することで痛みをとってあげたり、それ以上の見た目の変化を防ぐこともでき、多くの動物は問題なく生活することができるようになります。顎の骨の手術に不安を感じているご家族がいらっしゃいましたら当院にご相談ください。
当院では、獣医腫瘍科認定医による腫瘍科専門外来を行なっております。
詳細は下記のリンクをご参照ください。