本日の一症例

足のできもの

腫瘍科(ガン)/外科

犬の四肢の軟部組織肉腫

動物
種類 シェットランド・シープドック
性別 避妊雌
年齢 15歳
地域 京都市左京区
症状/病態 後肢の腫瘤(しこり)
考えられる病気 炎症、肥満細胞腫、軟部組織肉腫、脂肪腫など

後肢に腫瘤(しこり)があり、他院でがんの可能性があるとのことで当院に紹介来院されました。

腫瘤は左後肢に認められ、直径5cm×5cmの比較的大きい腫瘤でした。

細胞診では確定診断を得ることができなかったため、組織生検(腫瘤の一部を採取し、病理検査を行う方法)を行った結果、軟部組織肉腫と診断されました。

軟部組織肉腫は皮下に発生することの多いがんで、昔は十分な外科マージン(腫瘍から2〜3cm離れた正常組織も含めた切除)が必要と考えられていました。しかし、この場所でそれほどのマージンを確保することは困難であり、十分な外科マージンを確保するとなると断脚が必要となります。

一方、全部ではありませんが、四肢(特に肘や膝より末端側)に発生する軟部組織肉腫は悪性度が低いものが多く、正常組織を2〜3cmも切除しなくてもよいということが数年前から分かってきました。

これは私たちにとってはものすごく朗報であり、このおかげで断脚をせずにすむ場合もあるからです。

このわんちゃんもご家族にその旨をお話し、断脚はせずに手術をするという方針になりました。

以下、手術の写真となります。苦手な方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は1cmの正常組織を含めて切除することとしました(青点)

切除後の写真です。腫瘍の下側は筋膜(筋肉を覆っている膜)を含めて切除します

この術創をそのまま閉鎖するのは困難なので、今回は皮弁(別の部位から皮膚を移動させる方法)を用いて、閉鎖することとしました。

今回は膝の部位から股関節にかけて大腿部を走行する血管(赤線)を用いて術創を閉鎖することとしました。青線は採取する皮弁です。この線を目安に皮弁を採取していきます(今回はこの線よりも少し手前で皮弁を採取しています)。

膝の部分まで皮弁を採取したら、術創の部位まで移動させて(青矢印)、術創を閉鎖できるか確認します。

最後に皮下組織と皮膚を縫合して手術終了です。

術後の経過は良好で、術後12日目に無事抜糸が終わりました。

病理診断は悪性度の低い軟部組織肉腫であり、腫瘍も切除した部位にまで広がっておらず、無事切除することができました。今後は再発しないかどうかを経過みていく予定です。

今回は、四肢に発生した大きな軟部組織肉腫を断脚せずに手術した症例をご紹介しました。
腫瘍の種類によっては断脚が必要な場合もありますが、今回の症例のように断脚が必要のない場合もあります。もし同じような病気になってしまった場合は当院にご相談いただければと思います。

診断名

軟部組織肉腫