猫の脾臓の肥満細胞腫

病態
炎症やアレルギー反応などに関与する肥満細胞が腫瘍化した悪性腫瘍(がん)で、猫の肥満細胞腫は主に皮膚、脾臓、腸に発生し、中高齢での発生が多いです。
その中でも猫の脾臓の肥満細胞腫は、脾臓に発生しやすいがんで最も多く、転移率も高く、主にリンパ節、肝臓、血液、皮膚に転移します。
また、肥満細胞腫は細胞内顆粒というものを含んでおり、これが細胞内から放出されると、できもの周囲の炎症や胃潰瘍、血圧の低下、できものからの出血などがみられることもあります。
症状
嘔吐、元気や食欲の低下、体重減少、腹水貯留などがみられます。
診断
肥満細胞腫の診断には針生検(細い針をさして細胞を採取する検査)が有用で、その多くは、上述したように細胞内顆粒を含んでいることが多いため診断可能です。
針生検で採取された肥満細胞腫
ステージングおよび併発疾患の確認
脾臓の肥満細胞腫と診断した場合、がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(肝臓や血液、皮膚などへの転移)の評価を行います。これをステージングといいます。
同時に併発疾患がないかどうかも評価します。
これらの評価には以下の検査を組み合わせて行い、評価を基に治療方針を決定します。
・血液検査:併発疾患(貧血や腎臓病、肝臓病など)の評価
・バフィーコート検査(血液中の細胞を集めた検査):血液中への転移の評価
※脾臓の肥満細胞腫の場合、約40%がバフィーコート中に肥満細胞腫がみられるため、必須の検査です。
バフィーコート中の肥満細胞腫(赤丸)
・尿検査:併発疾患(腎臓病など)の評価
・レントゲン検査:遠隔転移の評価
・超音波検査:リンパ節転移、遠隔転移の評価
・CT検査:がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移の評価
・リンパ節、肝臓の針生検:リンパ節転移、遠隔転移の評価
治療
がんの治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和治療」があります。
「根治治療(積極的治療)」とはがんと闘う治療であり、がんをできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。根治治療(積極的治療)は長期生存(一般的には年単位)を目的とした治療であり、がんを治すことができる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いがんでは、根治治療(積極的治療)を行ったとしても数カ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療(積極的治療)では主に「手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療・分子標的治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
一方、「緩和治療」とは、がんによる苦痛を和らげることを目的とした治療です。緩和治療は長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(一般的には月単位)であってもその期間の動物の生活の質を改善するために行う治療です。緩和治療では主に「痛みの治療」、「栄養治療」、「症状を和らげる治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
・脾臓の肥満細胞腫の根治治療(積極的治療)
根治治療として手術(脾臓摘出と必要であればリンパ節の切除)が適応となります。また、転移がみられる場合は、手術後に抗がん剤などを行う場合もあります。
・脾臓の肥満細胞腫の緩和治療
麻酔をかけることができないなど様々な理由で手術を行うことができない場合、抗がん剤や抗炎症薬、その他症状を緩和する治療が行われます。
予後
報告により多少のばらつきはありますが、最近の報告では手術を行なった場合の生存期間中央値は856日であり、転移している場合でも長期生存が期待できます。また、手術を行うことで多くの場合、状態が改善します。
一方、手術を行わなかった場合の生存期間中央値は342日であり、手術を行なった場合と比較すると予後は悪いです。
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当院では、獣医腫瘍科認定医による腫瘍科専門外来を行なっております。
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