病気紹介

犬の肺腫瘍

病態

気管支や肺胞の上皮細胞が腫瘍化した悪性腫瘍(がん)です。

主に高齢(平均年齢は11歳)で発生します。

犬でみられる肺腫瘍は肺腺癌が最も多く、その他腺扁平上皮癌や扁平上皮癌がまれにみられます。

肺腺癌は転移しやすく、最も多いのが胸の中のリンパ節や他の肺への転移です。

症状

特に症状はなく、健康診断や他の病気の際のレントゲン撮影で偶発的に見つかる場合が多いです。

病気が進行すると、咳や呼吸がはやい、疲れやすいなどの症状がみられるようになります。

診断

肺腫瘍の診断には針生検(細い針をさして細胞を採取する検査)が有用ですが、発生部位によって針生検が困難な場合も多いです。

そのため、孤立性(できものが一つ)の場合は、手術でできものを切除し、病理組織検査で診断することが多いです。

一方、できものが複数あるいは多数ある場合は、肺腫瘍ではなく、転移性腫瘍の可能性が高くなるため、肺以外に腫瘍がないかどうかの評価が必要となります。

ステージングおよび併発疾患の評価

肺腫瘍が疑わしい場合、がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(他の肺などへの転移)の評価を行います。これをステージングといいます。

同時に併発疾患がないかどうかも評価します。

これらの評価には以下の検査を組み合わせて行い、評価を基に治療方針を決定します。

・血液検査:併発疾患(貧血や腎臓病、肝臓病など)の評価
・尿検査:併発疾患(腎臓病など)の評価
・レントゲン検査:がんの大きさ、リンパ節転移、遠隔転移の評価

肺腫瘍のレントゲン画像(赤丸)

・CT検査:がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移の評価
※CT検査は治療方針を決定するうえで必須の検査です

肺腫瘍のCT画像(赤丸)

犬の肺腫瘍のステージ分類

腫瘍の大きさ・数・臓器浸潤(T) リンパ節転移(N) 遠隔転移(M)
T1:<3cm・孤立性・臓器浸潤なし N0:リンパ節転移なし M0:遠隔転移なし
T2:3~5cm・孤立性・臓側胸膜、気管支に浸潤 N1:同側気管気管支リンパ節への転移 M1:癌性胸水、対側肺への転移、胸腔外転移
T3:5~7cm・同側肺に複数、胸壁、心膜、横隔神経に浸潤 N2:遠隔リンパ節への転移  
T4:>7cm・同側肺に病変あり、縦隔、横隔膜、心膜、大血管、反回喉頭神経、主気管支分岐部、気管、食道、椎体に浸潤    

 

ステージ  
1 T1N0M0
2 T2-3N0M0、T1-2N1M0
3 T4N0M0、T3-4N1M0、T1-4N2M0
4 T1-4N1-2M1

治療

がんの治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和治療」があります。

「根治治療(積極的治療)」とはがんと闘う治療であり、がんをできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。根治治療(積極的治療)は長期生存(一般的には年単位)を目的とした治療であり、がんを治すことができる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いがんでは、根治治療(積極的治療)を行ったとしても数カ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療(積極的治療)では主に「手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療・分子標的治療」を単独あるいは組み合わせて行います。

一方、「緩和治療」とは、がんによる苦痛を和らげることを目的とした治療です。緩和治療は長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(一般的には月単位)であってもその期間の動物の生活の質を改善するために行う治療です。緩和治療では主に「痛みの治療」、「栄養治療」、「症状を和らげる治療」を単独あるいは組み合わせて行います。

・肺腫瘍の根治治療(積極的治療)

根治治療として手術(腫瘍の切除と必要であればリンパ節の切除)が適応となります。

また病理組織検査の結果次第では、手術後に抗がん剤などが適応となる場合もあります。

・肺腫瘍の緩和治療

腫瘍がすでに別の領域の肺や他の臓器に転移している場合、根治治療は適応となりません。

その場合は、痛みの緩和や腫瘍の進行を遅らせる治療(分子標的治療など)が選択されます。

また、胸水貯留がみられる場合は緩和治療として抗がん剤が適応となる場合もあります。

当院では、状況に応じて、免疫療法、鎮痛剤などを組み合わせて行うこともあります。

予後

ステージ1とステージ2の場合、根治治療を行った場合の生存期間中央値は約2年であり、比較的予後は良好です。

一方、ステージ3とステージ4の場合、生存期間中央値は約5ヶ月であり、予後は悪いです。ただし、この場合でも、適切な緩和治療を行うことで動物の生活の質を改善させることは可能です。

 

愛犬が肺腫瘍を患ってしまい、ご不安な方は当院にご相談ください。