病気紹介

犬の腎臓腫瘍

病態

腎臓の組織から発生する腫瘍で、そのほとんどが悪性です。

犬でみられる腎臓腫瘍は腎腺癌が最も多く、その他肉腫やリンパ腫、腎芽腫などがみられます。

主に中高齢で発生しますが、腎芽腫は若齢~高齢まで幅広く発生します。

腎臓腫瘍は診断した時点で約10~20%が転移していると考えられており、主にお腹の中のリンパ節や肺に転移します。その他、骨などに転移することもあります。

また、頻度は多くありませんが、腎臓腫瘍により赤血球増加症がみられることもあります。

症状

健康診断の際に見つかる場合もありますが、多くは元気・食欲の低下、血尿、疼痛などがみられます。

診断

腎臓腫瘍の診断には針生検(細い針をさして細胞を採取する検査)が有用ですが、細胞が採取されない場合もあります。

その場合、組織生検(できものの一部を採取する検査)による病理診断が必要となりますが、検査で腎臓腫瘍が疑わしい場合は、手術で切除し、病理組織検査で診断することが多いです。

ステージングおよび併発疾患の確認

腎臓腫瘍が疑わしい場合、がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(肺、骨などへの転移)の評価を行います。これをステージングといいます。

同時に併発疾患がないかどうかも評価します。

これらの評価には以下の検査を組み合わせて行い、評価を基に治療方針を決定します。

・血液検査:赤血球増加症の評価、併発疾患(腎臓病、肝臓病など)の評価
・尿検査:併発疾患(腎臓病など)の評価
・レントゲン検査:がんの大きさ、遠隔転移(肺、骨など)の評価

腎臓腫瘍のレントゲン画像(赤丸)

・腹部超音波検査:がんの大きさや広がり、リンパ節転移の評価
・CT検査:がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移の評価、腫瘍と反対側の腎臓の評価
※CT検査はより綿密な治療方針を決定するうえで推奨される検査です

腎臓腫瘍のCT画像(赤丸)

治療

がんの治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和治療」があります。

「根治治療(積極的治療)」とはがんと闘う治療であり、がんをできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。根治治療(積極的治療)は長期生存(一般的には年単位)を目的とした治療であり、がんを治すことができる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いがんでは、根治治療(積極的治療)を行ったとしても数カ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療(積極的治療)では主に「手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療・分子標的治療」を単独あるいは組み合わせて行います。

一方、「緩和治療」とは、がんによる苦痛を和らげることを目的とした治療です。緩和治療は長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(一般的には月単位)であってもその期間の動物の生活の質を改善するために行う治療です。緩和治療では主に「痛みの治療」、「栄養治療」、「症状を和らげる治療」を単独あるいは組み合わせて行います。

・腎臓腫瘍の根治治療(積極的治療)

リンパ腫以外の腫瘍の場合、根治治療として手術が適応となります。

また、病理診断の結果次第では、手術後に抗がん剤などが適応となる場合があります。

リンパ腫の場合は抗がん剤が適応となります。

・腎臓腫瘍の緩和治療

腫瘍が転移している場合や腫瘍と反対側の腎臓の機能が失われている場合、根治治療は適応となりません。

その場合は、痛みの緩和や腫瘍の進行を遅らせる治療(分子標的治療など)が選択されます。

また、痛みなどで動物の生活の質が落ちるようであれば、転移があったとしても緩和治療として手術が適応となる場合もあります。

当院では、状況に応じて、免疫療法、鎮痛剤などを組み合わせて行うこともあります。

予後

腎腺癌の生存期間中央値は16ヶ月、肉腫の生存期間中央値は9ヶ月、腎芽腫の生存期間中央値は6ヶ月と報告されています。しかし、腎臓腫瘍の予後には幅があり、数年単位で生存する症例もいますので、必ずしも予後が悪いわけではありません。

 

愛犬が腎臓腫瘍を患ってしまい、ご不安な方は当院にご相談ください。