病気紹介

犬の悪性黒色腫(メラノーマ)

病態

メラニンを形成するメラニン細胞が腫瘍化した悪性腫瘍(がん)です。

主に高齢(10~14歳)で多く発生しますが、若齢から中齢でも発生します。

悪性黒色腫(メラノーマ)は一般的に口腔内(歯肉や舌、硬口蓋など)、皮膚、爪床に発生しますが、その他の部位にもまれに発生します。特に口腔内で最も多く発生するがんが悪性黒色腫になります。

悪性黒色腫(特に口腔内、爪床)は転移しやすく、最も多いのがリンパ節と肺転移です。その他、お腹の中の臓器への転移などもみられます。

悪性黒色腫(口腔内・皮膚・爪床)

症状

・口腔内
口臭や口からの出血、食べにくいなどの症状がみられます。これらの症状は歯周病でもみられるため、歯周病と間違われ、発見が遅れてしまうことも多いです。

・皮膚
特に症状はなく、健康診断の際やご家族が皮膚のできものに気づいて見つかる場合が多いです。まれにできものから出血することもあります。

・爪床
爪をなめる、歩きにくそう、爪からの出血などの症状がみられます。

診断

悪性黒色腫の診断には針生検(細い針をさして細胞を採取する検査)が有用で、細胞内にメラニン顆粒を含んでいることが多いため診断可能です。また、肉眼的に黒いことも診断の一助となります。

しかし、細胞内にメラニン顆粒が認められない場合や肉眼的に黒くない場合は、針生検での診断は困難であり、その場合は組織生検(できものの一部を採取する検査)が必要となります。また、悪性黒色腫と良性の黒色腫(メラノサイトーマ)は針生検や肉眼では判断できないこともあり、最終的な診断には組織生検が必要な場合もあります。

針生検で採取された悪性黒色腫

ステージングおよび併発疾患の評価

悪性黒色腫と診断した場合、がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(肺やお腹の臓器への転移)の評価を行います。これをステージングといいます。

同時に併発疾患がないかどうかも評価します。

これらの評価には以下の検査を組み合わせて行い、評価を基に治療方針を決定します。

・血液検査:併発疾患(貧血や腎臓病、肝臓病など)の評価
・尿検査:併発疾患(腎臓病など)の評価
・レントゲン検査:遠隔転移の評価
・超音波検査:遠隔転移の評価
・CT検査:がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移の評価
※口腔内の悪性黒色腫の場合、骨への浸潤が認められることが多いため、CT検査は必須の検査です
・リンパ節の針生検:リンパ節転移の評価

犬の口腔内悪性黒色腫のステージ分類

ステージ 腫瘍の大きさ リンパ節転移 遠隔転移
1 2cm未満 なし なし
2 2~4cm なし なし
3 4cm以上 なし なし
大きさは問わないが骨浸潤あり なし なし
大きさは問わない あり(腫瘍と同側側で遊離性) なし
4 大きさは問わない あり(腫瘍と反対側で遊離性)

あり(固着性)

なし
大きさは問わない 転移の有無は問わない あり

 

治療

がんの治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和治療」があります。

「根治治療(積極的治療)」とはがんと闘う治療であり、がんをできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。根治治療(積極的治療)は長期生存(一般的には年単位)を目的とした治療であり、がんを治すことができる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いがんでは、根治治療(積極的治療)を行ったとしても数カ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療(積極的治療)では主に「手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療・分子標的治療」を単独あるいは組み合わせて行います。

一方、「緩和治療」とは、がんによる苦痛を和らげることを目的とした治療です。緩和治療は長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(一般的には月単位)であってもその期間の動物の生活の質を改善するために行う治療です。緩和治療では主に「痛みの治療」、「栄養治療」、「症状を和らげる治療」を単独あるいは組み合わせて行います。

・悪性黒色腫の根治治療(積極的治療)

根治治療として手術(腫瘍の切除と必要であればリンパ節の切除)が適応となります。

また、口腔内の悪性黒色腫で浸潤が強く手術で切除が困難な場合、放射線治療が適応となります。

さらに病理組織検査の結果次第では、抗がん剤などが適応となる場合もあります。

・悪性黒色腫の緩和治療

腫瘍がすでに遠隔転移している場合(ステージ4)は、根治治療は適応となりません。

その場合は、痛みの緩和や腫瘍の進行を遅らせる治療(免疫療法など)が選択されます。

また、腫瘍からの出血や痛みなどで動物の生活の質が落ちるようであれば、遠隔転移があったとしても緩和治療として手術や放射線治療が適応となる場合もあります。

当院では、状況に応じて、温熱療法やレーザー治療、免疫療法、鎮痛剤などを組み合わせて行うこともあります。

予後

・口腔内
ステージ1の場合、根治治療を行うことで比較的予後はよく数年単位の生存が期待できます。

ステージ2・3の場合、根治治療を行った場合の生存期間中央値は約1年となります。

一方、ステージ4の場合、予後は悪く、数ヶ月で亡くなってしまう場合が多いです。

根治治療を行わない場合、予後は悪く、2ヶ月程度で亡くなってしまいます。

ただし、適切な緩和治療を行うことで動物の生活の質を改善させることは可能です。

・皮膚
根治治療を行うことで腫瘍を治すことができる場合が多いです。

・爪床
根治治療を行った場合の生存期間中央値は約1年となります。

 

愛犬が悪性黒色腫を患ってしまい、ご不安な方は当院にご相談ください。

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