猫の鼻腔内リンパ腫
病態
猫の鼻腔内リンパ腫は鼻腔内に発生する腫瘍で最も多く、中高齢での発生が多いです。
初期では腫瘍は鼻腔内に限局している場合が多いですが、進行すると頭蓋内への浸潤や腎臓など全身に転移する場合があります。
症状
初期では鼻汁、くしゃみがみられるのみでウイルス性の鼻炎などとの区別が困難です。
進行すると、鼻出血、呼吸困難、元気・食欲の低下、体重減少などがみられるようになります。
また、腫瘍が頭蓋内へ浸潤すると痙攣などがみられる可能性もあります。
診断
リンパ腫の診断には針生検(細い針をさして細胞を採取する検査)が有用ですが、鼻腔内の場合、進行しない限り針生検を行うことは難しく、外鼻孔(鼻の穴)からストローなどを挿入し、組織を採取し、病理組織検査を行う必要があります。
ステージングおよび併発疾患の確認
鼻腔内リンパ腫が疑わしい場合、がんの広がり、リンパ節転移、遠隔転移(腎臓など)の評価を行います。これをステージングといいます。
同時に併発疾患がないかどうかも評価します。
これらの評価には以下の検査を組み合わせて行い、評価を基に治療方針を決定します。
・血液検査:併発疾患(貧血や腎臓病、肝臓病など)の評価
・尿検査:併発疾患(腎臓病など)の評価
・レントゲン検査:がんの広がり、遠隔転移の評価
鼻腔内リンパ腫のレントゲン画像(赤矢印で示した鼻腔内が青矢印で示した鼻腔内より白くなっています)
・超音波検査:リンパ節転移、遠隔転移の評価
・CT検査:がんの広がり、リンパ節転移、遠隔転移の評価
※CT検査はがんの広がりや組織を採取する際に必要な検査です
鼻腔内リンパ腫のCT画像(赤矢印で示した鼻腔内が腫瘍が存在している部位です。青矢印で示した正常な鼻腔内と色合いが違うのが分かります)
猫の鼻腔内リンパ腫のステージ分類
ステージ | |
1 | 骨融解はなく、片側の鼻道、副鼻腔、前頭洞に限局 |
2 | 骨融解はみられるが、皮下・眼窩・粘膜下・鼻咽頭への浸潤なし |
3 | 皮下あるいは眼窩あるいは粘膜下・鼻咽頭への浸潤 |
4 | 篩板の骨融解あり |
治療
がんの治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和治療」があります。
「根治治療(積極的治療)」とはがんと闘う治療であり、がんをできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。根治治療(積極的治療)は長期生存(一般的には年単位)を目的とした治療であり、がんを治すことができる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いがんでは、根治治療(積極的治療)を行ったとしても数カ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療(積極的治療)では主に「手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療・分子標的治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
一方、「緩和治療」とは、がんによる苦痛を和らげることを目的とした治療です。緩和治療は長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(一般的には月単位)であってもその期間の動物の生活の質を改善するために行う治療です。緩和治療では主に「痛みの治療」、「栄養治療」、「症状を和らげる治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
・鼻腔内リンパ腫の根治治療(積極的治療)
根治治療として放射線治療、抗がん剤が適応となります。
・鼻腔内リンパ腫の緩和治療
抗炎症薬、その他症状を緩和する治療(止血治療など)が行われます。
予後
報告により多少のばらつきはありますが、根治治療を行い、治療に反応すると年単位の長期生存が期待でき、予後は比較的良好です。一方、治療に反応しない場合、数か月から半年程度と考えられます。
緩和治療のみを行った場合の報告はありませんが、おそらく1〜2か月程度と考えられ、予後は悪いです。
愛猫が鼻腔内リンパ腫を患ってしまい、ご不安な方は当院にご相談ください。
当院では、獣医腫瘍科認定医による腫瘍科専門外来を行なっております。
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