犬の肥満細胞腫

病態
炎症やアレルギー反応などに関与する肥満細胞が腫瘍化した悪性腫瘍(がん)です。
発生年齢の平均は8~9歳ですが、若齢から高齢まで幅広く発生します。
肥満細胞腫は皮膚で最も発生するがんの一つで、皮膚以外にも皮下や筋肉内、肝臓や脾臓などの内臓にも発生することがあります。特にパグは肥満細胞腫ができやすく、皮膚に多発することがあります。
肥満細胞腫は細胞内顆粒というものを含んでおり、これが細胞内から放出されると、しこり周囲の炎症や胃潰瘍、血圧の低下、しこりからの出血などがみられることもあります。
また、肥満細胞腫は米粒大くらいの大きさのものもあれば、握り拳大くらいの大きさのものもあり、皮膚にしこりが認められた際は必ず肥満細胞腫の可能性を考えないといけません。
皮膚の肥満細胞腫の転移率は比較的高く、約20〜40%程度はリンパ節に転移しており、約5%は遠隔転移(肝臓や脾臓など)が認められます。転移率は腫瘍の発生位置や大きさにも関係しており、マズルや口唇付近、陰嚢、鼠径部などに発生した場合や大きさが3cm以上の場合はよりリンパ節に転移している可能性が高くなります。

皮膚肥満細胞腫(赤丸)(左上:5mm、中央上:4cm、右上:7cm、左下:1.5cm、中央下:1cm、右下:3cm)
症状
肥満細胞腫の多くは皮膚に発生するため、健康診断やご家族がしこりに気づいて見つかる場合が多く、症状を伴わない場合が多いです。しかし、腫瘍に気づいていてもそのまま経過をみていると腫瘍からの出血や疼痛などがみられ、元気や食欲がなくなってしまう場合もあります。
診断
肥満細胞腫の診断には針生検が有用で、その多くは、上述したように細胞内顆粒を含んでいるため診断可能です。しかし、まれに細胞内顆粒が認められない場合もあり、その場合は組織生検が必要となります。

針生検で採取された肥満細胞腫(左:細胞内顆粒あり、右:細胞内顆粒なし)
ステージングおよび併発疾患の評価
肥満細胞腫と診断した場合、がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(肝臓、脾臓、骨髄など)の評価を行います。これをステージングといいます。
同時に併発疾患がないかどうかも評価します。
これらの評価には以下の検査を組み合わせて行い、評価を基に治療方針を決定します。
・血液検査:併発疾患(貧血や腎臓病、肝臓病など)の評価
・尿検査:併発疾患(腎臓病など)の評価
・レントゲン検査:リンパ節、肝臓、脾臓の評価
・超音波検査:遠隔転移の評価
・CT検査:がんの大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移の評価
※肥満細胞腫の場合、必須ではありませんが、腫瘍が大きい場合やリンパ管造影によりセンチネルリンパ節(腫瘍が一番最初に転移するリンパ節)を同定する場合などにCT検査は必要となります
・リンパ節の針生検:リンパ節転移の評価
・c-kit遺伝子変異検査:肥満細胞腫の予後の評価
犬の肥満細胞腫のステージ分類
| ステージ | |
| 0 | 不完全切除された単発の腫瘍(顕微鏡病変) リンパ節転移なし |
| 1 | 皮膚に限局した単発の腫瘍 リンパ節転移なし |
| 2 | 皮膚に限局した単発の腫瘍 リンパ節転移あり |
| 3 | 多発性の腫瘍あるいは強い浸潤性を示す腫瘍 |
| 4 | 遠隔転移を伴う腫瘍 |
治療
がんの治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和治療」があります。
「根治治療(積極的治療)」とはがんと闘う治療であり、がんをできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。根治治療(積極的治療)は長期生存(一般的には年単位)を目的とした治療であり、がんを治すことができる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いがんでは、根治治療(積極的治療)を行ったとしても数カ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療(積極的治療)では主に「手術」、「放射線治療」、「抗がん剤治療・分子標的治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
一方、「緩和治療」とは、がんによる苦痛を和らげることを目的とした治療です。緩和治療は長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(一般的には月単位)であってもその期間の動物の生活の質を改善するために行う治療です。緩和治療では主に「痛みの治療」、「栄養治療」、「症状を和らげる治療」を単独あるいは組み合わせて行います。
・肥満細胞腫の根治治療(積極的治療)
根治治療として手術(腫瘍の切除と必要であればリンパ節の切除)が適応となります。
また、腫瘍が完全に切除できていない場合(ステージ0)や病理組織検査の結果次第では、放射線治療や抗がん剤治療、分子標的治療などが適応となる場合もあります。
腫瘍が大きすぎて手術で切除できない場合は、手術前に放射線治療や抗がん剤、分子標的治療などが適応となる場合もあります。
・肥満細胞腫の緩和治療
腫瘍がすでに遠隔転移している場合(ステージ4)、根治治療は適応となりません。その場合は、痛みの緩和や腫瘍の進行を遅らせる治療(抗がん剤知慮や分子標的治療など)が選択されます。
また、腫瘍からの出血や痛みで動物の生活の質が落ちるようであれば、転移があったとしても緩和治療として手術が適応となる場合もあります。
。
予後
肥満細胞腫の予後は非常に幅広く、治すことができる肥満細胞腫もあれば、数ヶ月程度で亡くなってしまう肥満細胞腫もあります。
一般的に以下のものが認められる場合には、予後には注意です。一方、以下のものが認められない場合は治すことができる可能性が高いです
・皮膚や皮下以外の肥満細胞腫
・包皮や陰嚢の肥満細胞腫
・腫瘍の大きさは3cm以上
・c-kit遺伝子変異がある
・遠隔転移がある
・手術で完全に切除できておらず、リンパ節も切除していない
・病理検査による悪制度が高い(Patnaik分類:グレード3、Kiupel分類:高グレード)
・病理検査による腫瘍の分裂像が多い
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