病気紹介

犬の肥満細胞腫

病態

皮膚によくみられる腫瘍として広く知られており、肥満細胞腫はすべて悪性と考えます。

中高齢で発生することが多く、遺伝的背景があるとされ、ボクサー、ボストンテリア、ラブラドールレトリバー、ゴールデンレトリバー、パグなどに好発します。

腫瘍は単一、または多発性に出現します。特にパグでは約50%が多発性ですが、予後は良好であることが多いと言われています。

肥満細胞は円形の独立した細胞で、広い細胞質内に顆粒を有しヘパリン、蛋白分解酵素などを含み、特徴のある細胞です。

肥満細胞腫は発生場所、大きさ、硬さ、潰瘍形成、脱毛、発赤、周りとの境界が明瞭・不明瞭などの点において、実にいろいろで見た目だけでは判断がつかず、慎重を要する腫瘍です。

 

診断

細胞診

腫瘤を針生検により採取し、 細胞を顕微鏡で確認します。

・WHO臨床ステージ分類

0 単一の皮膚腫瘤の切除後でリンパ節転移なし

Ⅰ 単一の皮膚腫瘤でリンパ節転移なし

Ⅱ 単一の皮膚腫瘤でリンパ節転移あり

Ⅲ 多発性の皮膚腫瘤

Ⅳ 遠隔転移あり

予後判定のために使われますが、リンパ節転移がない多発性皮膚腫瘤については予後は良好になります。

 

・病理診断

切除した組織を染色し細胞の種類や悪性度などを組織学的に診断します。

切除した辺縁(マージン)に腫瘍細胞がないかも確認し、腫瘍細胞があった場合などは特に再発に注意が必要です。

 

*Patnaik 分類・・・グレードⅠ(悪性度:低)~Ⅲ(悪性度:高)の3分類

組織学的に腫瘍の形成部位や細胞の様子から判断します。予後判定を考えるために用いられますが、多くがグレードⅡに分類されたり、病理学者ごとに基準があいまいで一致しないことがあるのが課題とされています。

 

*Kiupel 分類・・・ 高グレードと低グレードの2分類

 

合併症の有無やステージングするため、必要に応じて検査を行います。

・血液検査

・エコー(超音波)検査・・・特に肝臓や脾臓

・リンパ節細胞診検査など

 

 

治療

・外科的切除

以前は腫瘍周囲を3cm、深部は筋層一枚を切除することが推奨されていましたが、近年では2cmと筋膜一枚の切除でも結果が変わらない、グレードⅠでは周囲1cmの切除でも十分との報告があります。

切除した組織は病理検査をして、腫瘍の確定診断や切除が十分であったかを確認します。

特にグレードがⅠ・Ⅱのものについては、完全切除で根治が期待されます。グレードⅡでは5‐10%で局所再発の可能性があり、グレードⅢで完全な切除が難しい場合、他の治療法との併用を検討します。

 

治療法においては、外科的切除が基本ですが、転移が見られる場合など症状によってそのほかの治療法を検討します。

・化学療法

・分子標的薬:イマチニブ、トセラニブ(パラディア)

・放射線治療

・温熱療法、レーザー治療

・免疫療法

・その他緩和療法

 

日ごろから体表全体を触って、皮膚にしこりがないか、よく見るようにしましょう。検査をして肥満細胞腫であった場合、小さな腫瘍でも周りを大きく切除することになりますので、早期発見・早期検査が大変重要です。何か異常を見つけたら、様子をみるのではなく、早めに受診するようにしましょう。

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